ときめきに支配されてまで

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「死に様よりも生き様を。」魅せてくれ、go!go!vanillas──4/14、東京公演

旧ブログにて2019年4月16日に投稿していた記事の再掲です。

 

ベーシスト・長谷川プリティ敬祐が交通事故に遭い、意識が戻らない。そのショッキングなニュースは2018年末に発表された。

その時点で決まっていたフェス出演、年が明けて4月の東名阪ワンマンツアー、もしその全てがキャンセルになっていたとしても、誰も彼らを責めなかったと思う。

しかし、バニラズはそれをしなかった。年末からのフェス出演ではサポートベーシストを迎えてライブを決行。愛に溢れた仲間たちの支えもあり、素晴らしいステージを見せた。プリティの意識が回復したという知らせは、第一報から1週間と少しあとのことであった。

1月後半には本人からのメッセージもあり、依然リハビリは続く状況ながらも3月に入り退院を発表。そんな中での東名阪ツアーである。

バニラズは、メンバー3人でステージに立つことを選択した。

 

ソールドアウトのZepp Tokyoは超満員である。ファン皆が今日という日──バニラズのワンマンライブを心待ちにしてきたのだ。照明が落ちた瞬間フロアに満ちた歓声が、何よりそれを物語っていた。

今回のツアーは5月に発売されるアルバムを引っさげた"新曲解禁ツアー"である。先行配信を一足先に済ませた『Hey My Bro.』の抜群のコーラスワークでライブはスタート。ジェットセイヤのドラムセットを下手に置いた、3人が横並びになるセッティングが珍しい。サポートを含め、これまでバニラズはベーシストを下手側に配置してきた。

「プリティの音、ちゃんと聞こえてるだろ?」

そう牧達弥が問いかけたとおり、ステージ上に姿はなくともそこにはプリティの音が鳴っている。情感たっぷりの牧のボーカル、演奏できるのが嬉しくてしょうがない!という気持ちが伝わってくる吠えるような栁沢進太郎のギター、ときに破壊的なほど爆音で支えるセイヤのドラム、それら全てを合わせてgo!go!vanillasである。

 

バニラズの曲というのは、様々な音楽を吸収してきた彼ららしくジャンルレスな──というより、バニラズというジャンル、というのがしっくりくるだろうか。洋楽ルーツが強いのかと思いきや日本の先輩バンドたちの要素も光っているし、カントリー調になったと思えばシティポップの香りを漂わせ、次の瞬間にはロックンロールスターになってしまう。でもそれが"なんでもかんでもやっている"わけではなくて、きちんと"go!go!vanillas然"としているから心地良い。目まぐるしいのに悪酔いしないジェットコースター。そんな印象である。

初披露された『パラノーマルワンダーワールド』『Do You Wanna』を含め、沸かせたフロアにいたのはまさにパーティークルーだ。新譜にも期待しかない。

新曲披露のブロックが終わり暗転すると前方のファンからざわめきが。そして明るくなったステージの上には──上手から、"ベースを提げた"栁沢・"ギターを提げてフロントに立つ"セイヤ・"ドラムセットに鎮座する"牧!演奏するはセイヤ作詞作曲の『Ready Steady go!go!』。慣れないパートでの演奏に多少の「転がり」は感じたものの、そのドタバタ感も込みでまさに「お好きなように/カラダが感じんだって!!!」。サプライズ的な演出でファンを熱狂させながらも、益々プリティが恋しくなったことは言うまでもない。「練習の5割くらい(の出来)」ということなので、名阪でのパワーアップにも期待したい。

 

『カウンターアクション』イントロで恒例となっている、栁沢によるコール&レスポンスのシメは「プリティ絶対戻って来いよ!」

これが今日一番のフロアからの大絶叫であり、皆の心からの叫びだった。プリティにも届いていただろうか。

特徴的なギターリフから始まるこの曲を聞くと、いつも「バニラズはやっぱりロックバンドだな」と実感するのである。

 

一際印象に残ったのは年始にシングルとして発売されている『No.999』。先のプリティに関しての発表があってからすぐにリリースされた曲だが、これは間違いなく今のバニラズのアンセムソングになった。こうなること(もちろん、この先に待っているプリティの"復活劇"を含めて)を予期していたかのような詞。良い創作者というのはときに予言するものだ。牧の強みのひとつでもある難しい譜割り、それでいてどこか懐かしい暴れ馬のような曲のパワーも合わせて紛れもなく今後のライブでの見せ場になる一曲。ああ、早く4人で鳴らす完全版を観たい!

そしてこの時代の名前を冠した『平成ペイン』。私たちにとっても、おそらく彼らにとっても、幸せなだけの時代ではなかった。「簡単じゃないよ 戦ばっかだし」。それでもこの曲を演奏しているとき、ライブハウスはいつだって多幸感に溢れている。バニラズはこれからもたくさんの人を踊らせ、照らし、新しい時代を代表するバンドにきっとなる。

 

「今日はアンコールはやりません……でも、このままハイ終わり、って言うのも寂しいから。今日はここから撮影タイムにします」

そう牧が告げると、歓声ののちフロアはスマートフォンを掲げる手でいっぱいになった。誰もが今日のこの瞬間をカタチにして残そうと思ったのだ。上手側から中央へ、そして最後に下手側に向いたとき、牧が「次、プリティ側!」と声を上げた。そして誰からともなく「ベース持ってこよう!」と写真にプリティのベースを収める提案。プリティの居場所は間違いなくここにある。5月から始まる全国ツアーの後、東京でのライブを行うという。

「そのときはプリティも帰って来させるから、この続きをやろうや!」

その宣言を私は信じたい。年末からのフェスではあえてイントロだけの演奏にとどめてきたキラーチューン『おはようカルチャー』もそろそろ久々に聴きたい。次回の東京公演は、アンコールのその先である。

 

ベースレスで音源を入れてのライブをすると発表されたとき、一ファンとして私はただ漠然と不安だった。

"生"であることが魅力の、バンドのライブにおいてそれをすることはある意味で武器の威力を下げることと同義である。もちろんそんなことは本人たちが一番わかっているだろう。

それでもワンマンライブにプリティ以外のベーシストを連れてくるということをしなかったのは彼らの確固たる決断の証拠。

気合の入った照明や特効などからも、チーム全体の高い士気が見えてくる公演だった。その心意気が演奏から伝わってきたのだから、結果的にこの選択は大正解だったに違いない。

 

バンド界隈全体に、悲しいニュースが多い。

バンドは、ライブは、生きている。奇しくもバニラズは今一番"生きている"バンドだ。

タワーレコードとコラボレーションした新しいポスターに書かれたバニラズからのコメントは以下のとおりである。

 

「バンドという奇跡を信じてやってきた。死に様よりも生き様を。──最新最高であれ。」

 

散々な目にあったっていい ハーベストと思えば。

しょんぼりしてる 暇なんかねぇ、のである。